Road Factors and Bicycle-Motor Vehicle Crashes at Unsignalized Priority Intersections
幹線道路と生活道路の無信号交差点では、脇道に出入りする車の速度を抑える構造や車道から2〜5m離した自転車道が自転車利用者にとって安全という研究。
出典
要旨(和訳)
本研究では市街地の優先道路[規制速度50km/h]の無信号交差点における自転車利用者の安全性を検証した。研究では交差点の設計上の特徴と自転車対自動車(BMV)事故の関係に焦点を当てた。研究対象とした540箇所の交差点では、自転車が関与した優先車妨害の事故が4年間で339件、警察に記録された。これらのBMV事故は、関与した自動車と自転車の動きによって2種類に分類した:
- I型:優先通行権のある(優先道路を通行していた)直進自転車が関わった衝突
[脇道に出入りする自動車との衝突] - II型:優先通行権のある(優先道路を通行していた)直進自動車が関わった衝突
[優先道路を横断する自転車との衝突]
負の二項回帰モデルにより、それぞれの衝突類型の発生確率をその相対的な交通量および独立変数と関連付けた。分析の結果、I型事故は双方向通行の自転車道があるか、明確な路面表示で区分され、煉瓦色に着色された自転車横断帯のある交差点で多く発生していた。一方、嵩上げ自転車横断帯(スピードハンプ上にあるものなど)やその他の速度抑制策の存在とは逆相関を示した。事故発生率はまた、交差点手前で自転車道が本線車道から2〜5m引き離されている場合にも低かった。II型の事故に関しては、物理的な中央分離帯[で守られた、横断自転車や左折自動車が使える滞留空間]の存在といった道路因子との有意な関係は一つも見られなかった。
寸評
データ収集の工夫
事故研究に付き物の事故データ不足に対処するため、調査対象に選ぶ交差点は自動車と自転車の片方または両方の交通量が多い路線(平均日交通量で概ね8000台以上、または自転車ネットワークの主要ルート)に絞り、かつ2005〜2008年の4年間の調査期間中に交差点構造が変わらないよう、対象の各自治体に事前に整備予定を聞き取っている。
交通量調査は2009年下半期に、学校が長期休暇ではない期間のオフピーク時間帯に20分間行ない、他の移動実態調査から得た係数で補正して推定日交通量に換算している。
自転車道の安全性についての先行研究との違い
日本だけでなく海外でも「自転車道は単路で安全でも交差点ではドライバーに意識されにくいため車道より危険だ」と言われるが、この統計研究では逆に車道から2〜5m離した自転車道が車道(自転車レーンと混在通行)より安全となっている。先行研究と異なる結果が出た理由について著者は、
- 研究対象地域のオランダではほとんどの大人が子供時代から自転車に乗っており、車の運転中も自転車を予期した安全確認が習慣化している可能性があること
- 先行研究と違って自転車交通量も考慮していること(先行研究では自転車道の整備後に自転車交通量が増えていたとしてもその影響を考慮できない)
の2点を挙げている。
自転車道と車道の離隔
自転車道を車道から2〜5m離す効果については先行研究の見解を引き、
- 脇道に曲がる車のドライバーが自転車に気付くまでの時間的余裕が増える(運転タスクの複雑さが下がる)こと
- 自転車利用者がトラックの助手席側の死角に入りにくくなること
を指摘している。日本では自転車インフラに関する議論で乗用車しか考慮されず、車体直近に大きな死角のある大型車の問題が忘れられがちなので、後者の指摘は特に重要だ。
双方向通行か一方通行か
双方向通行の自転車道の危険性はこの研究でも明らかになったが、著者は小川・森本 (2012) と同じく、一方通行と双方向通行のどちらを選ぶかに際しては個々の交差点レベルだけでなく旅程レベルでもリスクを考える必要があると実務者に向けて指摘している(自転車道の一方通行規制によって大多数の自転車利用者が幹線道路の横断2回を伴う迂回を強いられたり逆走した場合、一方通行の利点は帳消しになる)。
車の速度抑制策の重要性
この研究で最も効果的との結果が出た安全策は、自転車横断帯を横切る車の速度を抑えるハンプや、自転車道(と歩道)を同じ高さで連続させ車道を分断する exit construction (uitrit constructie) だ。著者は、サンプルサイズの小ささから確かには言えないものの、速度抑制策のある交差点の方が被害者の重傷度が低いようだとも指摘している。
exit construction の例
日本の現行ガイドラインは幹線道路と細街路の無信号交差点の設計例として、車道が平面で連続する切り開き構造のものしか示していない(pp. II-58 - II-61)が、本研究に照らせばこれは事故抑制の余地を残しており適切ではない。